翔べないひよこのブログ

早稲田大学の三年生です。孔子の説く道を志して日々、儒学を学んでいます。専門としては古典中国学と明治漢学者の『論語』解釈になります。

『春秋公羊傳何休解詁』隠公②

原文

王正月也

以上繋於王知王者受命布政施教所制月也王者受命必徙居處改正朔易服色殊徽號變犠牲異器械明受之於天不受之於人夏以斗建寅之月為正平旦為朔法物見色尚黒殷以斗建丑之月為正雞鳴為朔法物牙色尚白周斗以建子之月為正夜半為朔法物萌色尚赤

 

訓読

王の正月なり。
上に王に繋ぐを以て王者受命し政を布き教を施し制する所の月なるを知るなり。王者受命せば必ず居處を徙し、正朔を改め、服色を易へ、徽號を殊にし、犠牲を變じ、器械を異にして、之を天に受け、之を人に受けざるを明らかにす。夏 斗を建寅の月を以て正と為し、平旦を朔と為し、物見に法りて黒を尚ぶ。殷 斗を建丑の月を以て正と為し、雞鳴を朔と為し、物牙に法りて白を尚ぶ。周 斗を建子の月を以て正と為し、夜半を朔と為し、物萌に法りて赤を尚ぶ。
 
現代語訳
王の正月だからである。

上の字の「王」に繋がっていることから、王者が受命して政教を施す際に定める月であることがわかる。王者が受命したならば、必ず居住地を移し、服の色を変え、旗を特別にし、犠牲の種類を変え、器械を異なるものにすることで、命を天より授かり、人から授かったわけではないことを明らかにするのである。夏は、斗が建寅の方向を向いている月を正月とし、平旦を朔とし、植物の芽が地上に現れるのにのっとって、色は黒を尚んだ。殷は、斗が建丑の方向を向いている月を正月とし、鶏鳴を朔とし、植物の芽ができるのにのっとって、色は白を尚んだ。周は、斗が建子の方向を向いている月を正月とし、夜半を朔とし、植物が活動し始めるのにのっとって、色は赤を尚んだ。

*『春秋繁露』三代改制質文篇を参照

 

 

原文

何言乎王正月

据定公有王無正月

 

訓読

何ぞ王の正月を言うか。
定公に王有りて正月無きに据ればなり。
 
現代語訳
どうして王の正月と言うのか。
定公には「王」はあっても「正月」は無いから。
 
 
原文
大一統也

統者始也㧾繋之辞夫王者始受命改制布政施教於天下自公侯至於庶人自山川至於草木昆蟲莫不一一繋於正月故云政教之始

 

訓読

大一統なり。
統は始なり。に繋がるの辞なり。夫れ王者始めて受命し、制を改め、政を布き、天下に教えを施す。公侯より庶人に至るまで、山川より草木昆蟲に至るまで、一ならざる莫し。一は正月に繋ぐ。故に政教の始まりを云ふ。
 
現代語訳
一統を尊ぶからである。

「統」は始である。全てを繋ぐ字である。王者が始めて受命し、制度を改めて、政教を天下に施すと、公侯から庶人に至るまで、山川から草木昆虫に至るまで、一つに統合されないものはない。一は全てを繋ぐ字である「正月」に繋がっている。故に(「正月」は)政教の始まりを言うのである。

 

 

原文

公何以不言即位

据文公言即位也即位者一國之始政莫大於正始故春秋以元之氣正天之端以天之端正王之政以王之政正諸侯之即位以諸侯之即位正竟内之治諸侯不上奉王之政則不得即位故先言正月而後言即位政不由王出則不得為政故先言王而後言正月也王者不承天以制號令則無法故先言春而後言王天(刊本では夫となっていたが、岩本本に合わせる)不深正其元則不能成其化故先言元而後言春五者同日並見相須成體乃天人之大本萬物之所繋不可不察也

 

訓読

公何を以て即位を言はず。

文公 即位を言うに据ればなり。「即位」とは一國の始まりなり。政は正始より大なるは莫し。故に『春秋』、元の氣を以て天の端を正し、天の端を以て王の政を正し、王の政を以て諸侯の即位を正し、諸侯の即位を以て竟内の治を正す。諸侯上に王の政を奉ぜずんば、則ち即位するを得ず。故に先に正月を言ひて、而る後に即位を言ふなり。政 王に由りて出でずんば、則ち政を為すを得ず。故に先に王を言ひて、而る後に正月を言ふなり。王者 天を承けるを以て號令を制せずんば、則ち法無し。故に先に春を言ひて、而る後に王を言ふなり。天 深く其の元を正さずんば、則ち其の化成る能はず。故に先に元を言ひ而る後に春を言ふ。五者 同日にして並び見え、相須く體を成すべし。乃ち天人の大本にして、萬物の繋ぐる所なり。察せざるべからざるなり。

 

現代語訳

隠公にはどうして「即位」を言わないのか。

文公には「即位」を言っているからである。「即位」とは一国の始まりである。政治は始めを正すことより大事なことはない。故に『春秋』は、元の気によって天の端を正し、天の端によって王の政治を正し、王の政治によって諸侯の即位を正し、諸侯の即位によって国内の治を正すのである。諸侯が王の政治を奉じなければ、即位することができないのである。故に先に「正月」を述べて、その後に「即位」を述べるのである。政治は王によって発出されなければ、(あるべき)政治とは言えない。故に先に「王」を述べて、その後に「正月」を述べるのである。王者は、天を承けて號令を制定するのでなければ、規範が無い。故に先に「春」を述べて、その後に「王」を述べるのである。天は深くその根本の元を正さなければ、その化育は成就しない。故に先に「元」を述べて、その後に「春」を述べるのである。この五つのものは、経文上に並び、互いに不可欠なものとして一体を為すのである。つまり、これこそ、天人の大本であり、万物の繋がるものである。そのことを察しなければいけない。
 
 
原文
成公意也
以不有正月而去即位知其成公意
 
訓読
公の意を成すなり。
正月有らずして即位去るを以て、其れ公の意を成すを知るなり。
 
現代語訳
隠公の意志を成就させるためである。
「正月」がなく、「即位」の記事が無いことから、隠公の意志を成就させるためであることがわかる。
 
 
原文
何成乎公之意
据刺欲救紀而後不能
 
訓読
何ぞ公の意を成すか。
紀を救ふを欲し、而る後能はざるを刺するに据ればなり。
 
現代語訳
どうして隠公の意志を成就させるのか。
「紀を救おうとして、結局できなかったことを譏っている」から。
 
 
原文
公將平國而反之桓
平治也時廢桓立隠不平故曰平反還之
 
訓読
公將に國を平げて之を桓に反さんとす。
平は治なる。時に、桓を廢して隠立ち平かならず。故に平と曰ふ。反は之を還すなり。
 
現代語訳
隠公は国を平穏にしてから、位を桓公に還そうとしたのである。
平は治である。当時、桓公の代わりに隠公が即位しており、国内が不安であった。故に、「平」というのである。反は還すということである。
 
 
原文
曷為反之桓
据已立也
 
訓読
曷為れぞ之を桓に反さん。
已に立つに据ればなり。
 
現代語訳
どうして国を桓公に還そうとするのか。
已に隠公が即位していたからである。
 
 
*調べてみたところ、「据」の読み方は「據る」に通じており、「よりて」と読んでいます。①の方は間違えています。
 
『春秋繁露』の三代改正質文篇は和訳は無さそうです…『春秋繁露』の一部は、明徳出版社から出ている中国古典新書シリーズに含まれているのですが…